ミセスで好評連載中 「伊藤まさこさんの松本12か月」 本誌では載せきれなかったこぼれ話をご紹介します。

ヴァイオリンが育むもの

4月号 ヴァイオリンが育むもの

「どの子も育つ。育て方ひとつ」という理念を掲げ、ヴァイオリニストであった故・鈴木鎮一氏が創始した「スズキ・メソード」。その発祥の地が松本です。スズキ・メソードに入って3年目になる娘。ノートの最初にはスズキ・メソードの結城三紀子先生から、こんな言葉が記されています。「ヴァイオリンのお稽古を通して、美しい心の人になりますように……」鈴木先生も、すべての子どもたちに優しいまなざしを向けていたにちがいありません。

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今月の取材ノート

本誌でもご紹介したように、「スズキ・メソード」とは、音楽を通じて心豊かな人間を育てることを目的とする教育法の一つです。「生まれてきた子どもたちはみんな平等で才能の違いはない。生まれた日から親の教育(環境)によって人の心や感覚が育まれていくのです……」とは創始者・鈴木鎮一先生の言葉。その活動は、海外でも大きな支持を得ていて、アメリカに至っては日本よりも深く浸透しているのが現状とか。日本ではまだ充分広まっていないのが残念ですが、とはいえ松本にはその精神がしっかりと根づいているようです。

ここ「鈴木鎮一記念館」は、鈴木先生が奥さまと住まわれていた自宅をそのままに、当時のしつらいや直筆の原稿、写真や記念の品などが飾られています。目印は玄関前の庭にある大きなヒマラヤ杉。まるで知人宅を訪れるような感覚で玄関のブザーを鳴らすと、館長の結城賢二郎さんが出迎えてくださいました。

子どもたちに向けられた鈴木先生の思いを、丁寧に説明してくださった結城さん。実際に娘さんが「スズキ・メソード」でヴァイオリンを習っている伊藤まさこさんは、お話を聞くほどに、母親として子どもにどう接していくべきか……そんなことを再確認されていたようです。そして「少しずつでも毎日お稽古することが大切なんですね」としみじみ。日々の積重ねがいかに大きなことか、じんわりと心に響いた時間でした。

一方、ヴァイオリン製作者・井筒信一さんの工房は、市内から少し離れた山間の地。ごあいさつもそこそこに見せてくださったのは、井筒さんご夫妻をご紹介した1988年11月号の『ミセス』。懐かしい誌面を前に、紆余曲折の半生や、物作り、そうそうたる音楽家たちとの交友関係など、興味深いお話が繰り広げられました。

工房は木の香りが心地よく、天井に製作途中の作品がつるされていたのが印象的。棚には何十年も乾燥させたという粗取り前の木が保管されていました。トップクラスのヴァイオリニストは、材料を吟味することに大方の神経を注ぐのだそう。既に売約済みを示すサインが小さく書かれていたりして、いかに材質選びが重要かを思い知らされます。それを長年培った感覚で削り、ヴァイオリンを作り上げていく井筒さん。最後の調律も井筒さんの仕事です。

「松本の小さな工房のヴァイオリンだけれど、世界中の有名ブランドに負けないつもりで作っているよ」井筒さんに発注されるヴァイオリンは、プロはもちろん、子どものための小さなものまで様々。ちょうど製作中だった1歳半の子ども用のヴァイオリンを見せていただきましたが、その愛らしさったら。これを手にする子は、きっと感性豊かに成長していくんだろうな……。


(ミセス編集部)

松本の小さな風景

町の桜、山の桜。4月中旬、松本城公園内の桜は、満開後散った花びらで地面が桜色に染まる。
町を見下ろすアルプス公園の桜は、4月下旬、少し遅れて満開に。

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伊藤まさこさんプロフィール

いとう・まさこ
1970年横浜生まれ。文化服装学院で服作りとデザインを学ぶ。卒業後は料理や雑貨などのスタイリストとして数多くの女性誌や料理本で活躍。洋裁書や料理書、エッセイなど暮しぶりを紹介した本を出版し、持ち前のセンスや丁寧な暮しぶりで人気を集める。著書に『伊藤まさこの針仕事』『こはるのふく』(文化出版局)など多数。